福岡高等裁判所 昭和25年(う)1874号 判決
弁護人の控訴趣意第一点(採証上の違法)のうち、(い)供述調書に関する証拠調の方式違背について。
検事の面前における、被告人又はその他の者の供述を録取した書面であつて、その書面の存在又は存在の態様が特に証拠とされるのではなく、主としてその書面の意義すなわち記載内容が証拠とされるものについては、刑訴第三〇五条にいう証拠書類として、これが証拠調の方式は朗読の方法によるべきものと解するのが相当である。原判決が罪証に供する林田正年及び被告人の各供述調書は、いずれも検事の面前におけるものであつて、その書面の存在又は存在の態様が特に証拠とされるものでなく、主として、その書面の記載内容が証拠とされるものであるから、これが証拠調の方式は朗読の方法によるべきものと解すべきところ、原審第一回公判調書の記載に徴すれば、原審裁判官は、これを被告人及び弁護人に展示したのみに止まり、その朗読の手続を経た形跡がないこと、従つて、その証拠調の方式は適法でないというのほかないこと、まことに論旨指摘のとおりである。しかし右の違法は果して所論のように、結局証拠調を全く行わなかつたことに帰着し、判決に影響を及ぼすことの明らかな、手続法令の違反にあたるかどうかについては、なお、検討の余地がある。まず、右各供述調書については、たとえ、その証拠調の方式に適法を欠くものであつたにせよ、少くとも、証拠調の方式として展示の方法が講じられているのであるから、これを、証拠調の手続が全く行われなかつた場合と同一視するのは、妥当でない。
その記載内容が証拠とされる証拠書類についての証拠調の方式が、朗読の方法によるべきものとされるゆえんのものは、当事者をして、よく証拠の意義内容を理解納得せしめ、攻撃防禦の方策に遺憾なきを期せしめようという趣旨にほかならない。被告人及び弁護人に対しては、刑訴第二九九条により、右各供述調書につき、これが取調請求の事前において、他の証拠書類又は証拠物と共に、あらかじめこれを閲覧する機会が与えられているわけであり、なおまた、証拠申請の方法や、証拠調の順序、方式、その他いやしくも証拠調に関する手続について、異議をとなえる相当な理由がある場合においては、刑訴第三〇九条、刑訴規則第二〇六条等により、証拠調に関する異議を申立てる権利も保障されているのである。然るに、被告人又は弁護人において、右各供述調書の証拠調の方式に関し、異議を申立てた形跡は、記録上全く存しないばかりでなく、原審第一回公判調書の記載によれば、被告人及び弁護人は、却つて、右各供述調書について、これを証拠とすることに同意を与え、検察官のこれが取調請求に対しても異議のない旨を陳述している事実が明白である。以上のような事情のもとにおいては、右各供述調書の記載内容は、被告人及び弁護人においてもよくこれを理解していたものとして取扱うのが相当であり、このように、その記載内容が既に当事者によく理解されていると認められる証拠書類については、証拠調の方式として、たとえ、展示の方法がとられたに止まり、朗読による手続が跡まれなかつたとしても、そのことの故に、被告人の防禦上特に実質的な不利益を生ずる虞があるものとも認められないので、右の違法は、判決に影響を及ぼすことの明らかな手続法令の違背にはあたらないと解するのが相当である。
(註。本件は量刑不当により破棄自判)